好きとか愛とか
それに────
消去法だけど─────だけど─────

 「それでも、あの約束守ってくれたんだな」

守りたくて守ったわけじゃない。
でも守った結果には嫌な気はしていない。
あのとき私は、私の頭には壱矢が真っ先に思い浮かんだ。

 「でも、すぐに行ってやれなかった」

ごめんと言いかけた言葉を、吐き出す寸前で飲み込んだのが分かった。

 「来てくれました、ちゃんと」

あの時、私が壱矢の名前を叫んだから婦警さんが来てくれた。
あの時、私が唇を噛んだから壱矢の声が脳裏によみがえって今この瞬間に繋がったのだ。
私はそれで救われた。
壱矢が人差し指の背中で頬をなぞる。

 「お前ずっと笑ってろよ」

 「え…」

言われていることの意味が分からず、もう一度聞き返すと、頬を軽くつつかれた。

 「壱には笑ってて欲しい」

言われて初めて、自分の口元がほころんでいることに気付いた。
無意識に出していた表情を指摘されることほど、恥ずかしいものはない。
そして、羞恥心をあおられるにも最適。
かぁぁっと熱くなった頬を見られたくなくて、隠すようにそっぽを向いた。

 「すっげぇ真っ赤」

それでも壱矢には見られていて、真っ赤な顔はしっかりバレてしまっていた。
更に湯気が吹き出した。

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