好きとか愛とか
 「真っ赤にはなってません」

 「真っ赤だって。暗くてもよく見える」

 「そういうこと言わないでください」

 「言うよ。かわいいもん」

もん、て、あなた。
聞き慣れない単語より、語尾のもんに食いついてしまった。
この人がモテるというのは、こういうところなんだろうか。
壱矢をそういう目で見たことはなく、言い方は悪いが目の上のたんこぶくらいな感覚でしかなかったから、考えたこともなかったが、今みたいなことを言われると女はコロッといってしまうのだろう。

確かに、顔の作りは男前としか言いようがなく、黒目がちなアーモンドの瞳は大きく、流れるようなカーブで二重がかかっている。
筋の通る鼻は高く、薄い唇は男性のものにしてはもったいない血色のよさでうるうるしていた。
無造作に整えられた髪は細みで、記憶が正しければ雨の日などは少しうねって緩いカーブが出来ている。
そのふにゃふにゃさが可愛いと、前に誰かが騒いでいるのを聞いたことがあった。

誰に訊いてもかっこいいと言わせる壱矢の声は若干ハスキーで、けれど甘く響くようなトーン。
そりゃこんな声で女が喜ぶようなことを言ったら、たまんないんだろう。
なんとも思っていない私だって、可愛いなんて言われたら平常の心拍数を保っていられない。

 「やめてください」

 「かわいいよ、壱は」

 「だから────」

 「真っ赤になったの見られたくなくて、俯かないでそっぽ向くとこなんか特に」

完全に行動パターンを読まれ、戦闘不能になってしまった。

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