好きとか愛とか
私の部屋へ運ぶのがベストだけど、そのまま放っておくわけにもいか無いから、自室へ運んだのだろう。
私の部屋で介抱することと、自室で介抱することを秤にかけて、より私の負担が少ない方を選んだのは明らかだ。
部屋に入られて嫌がることと、男の部屋で介抱されることを選ぶには、男という立場上なかなか難しかったかもしれない。

 「こちらこそすみません」

そんな選択をさせてしまって。

 「こっちのほうこそ。やっぱり、まったく見ないわけにもいかなかったから、正直見た」

やっぱり見られていた。
そりゃそうだろうし、仕方がない。
見ないで服を着せるなんて芸当、なかなか出来るものじゃない。

 「いえ、お気になさらず。こんなものですみませんでした。もっといいものをお見せできればよかったんですが」

 「いいものってお前…」

お世辞にも見ごたえあるものとはとても言えない。
幼児体型ではないものの、だからといって女子高生の持つむちっとした中にあるスレンダーなどもない。
女の象徴とも言える胸は膨らみはあっても実っていないし、やせっぽちで貧相としか言いようがない身体はぶつかると小骨が刺さるとからかわれたことがあるくらいだ。
そんなものを見せた挙げ句に、きつい選択までさせてしまって、申し訳なさの極みである。

 「歴代の彼女さんたちのものと比べるとお粗末すぎるかと思うので」

これまで見てきた美体に比べてこの私、さぞ驚いたことだろう。
そんなことないよ、なんて、当たらず障らずな常套句がすぐさま返ってくるかと思っていたのに、扇ぐ手を止めた壱矢が自分の口元を被って私から目を逸らせた。

 「………妹以外ので見たの初めてだったからちょっと動揺してる」

 「え、初めてなんですか?」

思いがけないカミングアウトに、私でさえすこし食いぎみになってしまった。
意外すぎて言葉になら無い。

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