好きとか愛とか
手練手管、チャラ男、女好き、そのどれにも当てはまらないけれど、それなりの女性関係は否めないくらいに周りに女がいる壱矢が、まさか、まさか。
高校三年生、モテまくって引く手あまたならもうとっくにと思っていた。
今日ほど衝撃の一日はないだろうと思っていたのに、まさかの、それを上回るほどのビックリ発言だった。

そして初めて見る壱矢の照れて赤くなった表情。
タコさんまでとはいかないが、漫画で表現したら湯気が付け足されるだろう。
あまりに幼くて、あまりに可愛らしくて、目を逸らすことが出来ないくらいに食い入ってしまった。
ガン見する私を「見んな」と嗜めて、逞しい手のひらで目を隠しにくる。
それを両手で阻止してやる。
ごつごつした指が自分の指と絡まった。

 「数多の裸を見てきたのかと」

 「俺って何様だよ」

苦笑いは、自分に対する周りの評価を気にしてのことか。
指先と指先が遊ばれる。

 「女は壱以外ねぇよ」

私を見下ろした壱矢の顔が真剣なのはどうしてなんだろう。
何はともあれ、申し訳ないことで。

 「初めてが私のだなんて重ね重ねすみません」

 「お前が謝るとこかよそれ」

吹き出して笑った壱矢が、また内輪で風を送り始めた。
ちょっと強めで。
額に触れる空気が気持ちいい。
家に帰ってきてからやっと落ち着いた感じがする。
気を失って一旦リセットできたからだろうか。

さっきは脱衣所に恭吾さんがいるだけでパニックになって、まともな判断すら出来なかったというのに、今は壱矢の部屋で壱矢と二人きりでしかも壱矢のベッドに横になっている。
なのにちっとも、怖さを感じていない。
なんでだろう。
優しいから?
助けてくれたから?

< 83 / 242 >

この作品をシェア

pagetop