好きとか愛とか
今でも二人きりでいると居心地の悪さを感じるが、思い出せないあの頃に抱いていたものとは違っている。
落ち着きや、穏やかさが混ざっているのだ。
これはいったいどういうことなんだろうか。
異性を相手に居心地が悪いのに落ち着くなんて、矛盾した感覚をこの時はっきり自覚した。

それがなんなのかは分からない。
分からないけれど、これだけははっきり言える。
この人は私に、害を及ぼさない。
だから私は安心するのだ。

私と家族になるために私と接点を持とうとしているわけでもない。
だから安心するのかもしれない。
家族を強要しないから。
納得がいったらモヤモヤが晴れて、また瞼が重くなってきた。

 「まぁ、壱に怖がられるなら、男として見られない方がいいけどね」

 「どういうことですか?」

 「もう寝なよ」

そうやって促されるまま、私はまた目を閉じた。
意識が遠退く瞬間、胸の奥の方で、なにかのピースがはまるような、心地よい音を感じたのは気のせいだろうか。































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