好きとか愛とか
それを聞いてから、壱矢が隣で盛大に吹き出した。

 「あははははは、壱ヤバイかわいい」

盛大に笑った肩の動きが、振動した腕から伝わってくる。
そんなに笑うことを言った記憶はなく、なんなら彼女役として凛々しかったと思っていたのに、まさかこんな豪快に笑われるとは予想外だ。

 「俺の彼女。かわいいだろ?」

くつくつ笑いながら、私の手を自分の口元に当てた。
壱矢の唇が指先に触れる。
女子生徒が頬を赤らめ、あいうえおの中では発音できない奇声を発して驚いている。

 「え、マジで?この子?彼女?」

私と壱矢を交互に指差して確認する様は、なかなかにコミカルだ。

 「そう。今までこいつが恥ずかしがるからいないことになってたけど、二年くらい前から付き合ってる」

義理の家族が開始された辺りをチョイスする意図的さは、なんなんだろうか。
よくもまぁこんな嘘がつけるなと感心してしまう。
モテまくって疲れた挙げ句の苦肉の策と考えれば、責めるに責められないけれど。

 「マジで??」

 「マジで」

まだ納得しない女子達に躊躇い無く答える。
騙すのは気が進まないけれど、でも疑われるのは納得できない。
私では役不足と言われた気がする。
自覚しているが、人から言われれば癪に障るというもの。

 「初めまして。特進一年、斎賀壱です。奥津先輩と付き合ってます。今までは公表するのが恥ずかしかったですが、先輩がモテすぎて心配なのでそれどころではなくなり、大丈夫になりました」

自分で言ってて信じられない。


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