大好きな先生と、月明かりが差し込む部屋で過ごした夜
「無理だ、今からじゃ間に合わない!」
「もう決めたんです、変更しますから」
「勝手なことばかり言って、今までの努力が無駄になるぞ!」
今回、開催されるコンクールの成績で私の進路と人生は左右される。
わかってるけど、こんな気持ちじゃテンポが早くて派手な演奏はできないよ。
リスクは十分に理解して、曲を変える決意をした。
弟に告白して振られ、失恋した姉の心境なんて普通の人には分からない。
この傷心から気持ちをすぐに切り替えるなんて、私にはできないよ。
辛くて気持ちの沈んだ演奏は、審査員に気づかれて良い結果は期待できない。
何を言われても、心に決めたんです。
ごめんなさい、先生……
「僕は認めないよ。わかったね、美優くん……」
「……」
私は無言のまま首を左右に振り、先生の説得を聞き入れない。
ゆっくり長椅子から立ち上がった私は、パジャマ姿のままリビングを出る。
階段を上り、二階へ移動。
廊下を歩いた突き当りの広い部屋に一人で向かう。
厚みのある防音扉を開け、部屋に入ると大きな窓ガラスから月明かりが差し込んでいた。
フローリングの床板に、グランドピアノが二台並んで置いてある。
そこに、スポットライトが当たっているような月明かりの幻想的な風景。
私は、引きつけられるように歩き出す……