大好きな先生と、月明かりが差し込む部屋で過ごした夜


 私は素足で歩き進み、椅子に腰を下ろす。

 乾いた空気とホコリの臭い、部屋に差し込む月明かりが私を照らしてる。


 幼少から通ってる自宅兼ピアノ教室、この場所は私にとって癒しの空間。


 漆黒のグランドピアノを細めた目で見つめながら、今まで頑張って練習していた曲に別れを告げる。

 そして、私は指先を優しく鍵盤の上に乗せた。


 コンクールではテンポが早くて派手な楽曲ばかり挑戦してきた。

 結果もそれなりに出してきたけど、今回だけは優勝が必須。

 私の将来が決まってしまうので、夢中になって練習してきた。


 その楽曲を本番直前で変更なんて、先生が怒るのも無理はない。

 血縁者である家族に恋した私が、すべて悪いんです。

 世間でタブー扱いされてる行為に、触れてしまったのだから……


 もう決めたんだ、後戻りはできない。

 このまま自分を信じて突っ走る。

 壁にぶつかっても、あと一週間で本番。



 やるしかない……



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