大好きな先生と、月明かりが差し込む部屋で過ごした夜


 月明かりに照らされながら演奏する私。


 その横に人の気配を感じた。


「先生……」


 防音の広い室内に二台並んだグランドピアノ、幼少の時から先生は私の横で指導していた。


 普段、物静かで優しい先生も、ピアノを生徒に指導するときは真剣で厳しい。

 何度も泣かされ、怒られながら練習してきた。


 先生は、お母さんと同じ歳でお父さんと歳が近いのに若く見える。

 さすが現役のピアニスト、外見もカッコイイので演奏姿は見惚れてしまう。


「先生……」


 私は演奏の手を止め、立ち上がって思わず抱きしめた。

 年の差なんて関係ない、私は先生が大好き。

 先生の胸に顔を埋めると、心が満たされていくよ……


 でも先生は、私の頭に右手をポンポンと乗せるだけ。

 やっぱり子ども扱い、そして大人の対応……


 直前の曲変更、先生に迷惑をかけてしまった。

 思わず感情的になって抱きついたけど、私は冷静になって先生から体を離し椅子に座る。

 優しい笑顔を見せた先生は、隣の椅子に座って指先を鍵盤へ。


 隣で実演しながら、先生は熱心に指導してくれた。



 午後十時を過ぎても、私は演奏し続ける。


 一週間後のコンクールをめざして……






< 31 / 72 >

この作品をシェア

pagetop