大好きな先生と、月明かりが差し込む部屋で過ごした夜


 一週間ほど、優介と顔をあわせず集中して練習してきた。

 おかげで上達したけど、直前の曲変更に不安でいっぱい。

 自分で決めたことなので、誰も攻めることはできないよね。



 日曜日の午後、コンサートホールの客席に人が入り始めた。



 会場の入口やロビーにも関係者や演奏を聴きに来た人たちがあふれかえってる。

 この地域で秋に開催される最大規模のピアノコンクール高校生部門。


 高校一年生と二年生で準優勝だった私は、最優秀賞を目指す。

 強敵を圧倒する演奏で、審査員に良い印象を持ってもらうのが目標だ。


 目指す音大の推薦を勝ち取るには、有名なピアノコンクールで結果を出すしかない。

 一般入試もあるけど、コンクールで優秀な成績を残すために先生と頑張ってきた。


 それなのに私は、傷心で体調も良くない最悪のコンディション。


 スマホの画面には沢山の応援メッセージ。

 どれも涙が出るほど嬉しいけど、優介からは何も連絡はない。

 沙也香はいつも、うるさいほどたくさん送りつけてくるのに、今回は静かだ……


 いつも、不快な気持ちで聞いてた「お姉ちゃん」の言葉がないと、ちょっと寂しく感じてしまう。



「はぁ……」



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