大好きな先生と、月明かりが差し込む部屋で過ごした夜


 本当は私の演奏を聴いてほしい。

 でも、大好きな弟は姿を見せないだろう。


 そう思うと、肩の力が抜けて緊張が和らいできた……


 控え室に一人でいたら気持ちが沈むだけなので、私はいつも廊下の長椅子に座って本番に備えてる。

 そこに、大好きな先生が姿を見せた。


「もうすぐ出番だけど、準備は?」


「えっ、もうそんなに進んでるんですか!」


「美優くんは最終演奏者だけど、もうすぐだよ」


「急がないと……」


 緊張してると、時間が過ぎるのも早い。


 本番直前で気が抜けて準備に焦ることなんて今まで無かったのに、きっと優介のことを考えてたからだ。

 今日を節目に、私は傷心を乗り越えれるかな……


「美優くん、まちたまえ」


「どうしたんですか、先生……」



 先生は私の指先を優しく両手で掴みながら、静かに口を開いた。



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