大好きな先生と、月明かりが差し込む部屋で過ごした夜
「君の硬くなった指先は、頑張って練習した証」
「……」
「一週間前に何があったか聞かないけど、夜遅くまで練習したのは無駄じゃない」
「はい……」
「思い出せ、月明かりに照らされながら弾いたグランドピアノ。僕はいつも、美優くんの隣で演奏を見守ってるよ」
「先生……」
私は思わず涙ぐんでしまう。
幼少から通い続けたピアノ教室。
二台並んだグランドピアノ。
乾いた空気とホコリの臭い。
隣にいつも、大好きな先生が優しく微笑みながら指導してくれた。
私には弟だけじゃない。
応援してくれるクラスメイトや同級生もいる、一人ぼっちじゃないよね。
「私は、一人じゃない……」
先生は無言で頷きながら、私の両手を静かに離す。
先生に笑顔を見せた私は、背を向けて歩き出した。