大好きな先生と、月明かりが差し込む部屋で過ごした夜
控え室でドレスに着替え、メイクを済ませる。
廊下を歩いて会場へ向かうと、演奏を終えたピアニストたちが振り返って私を見つめてくる。
知ってる子に「矢島さん、キレイだね」って言葉をもらい、嬉しくて微笑んで見せた。
ピアニストとして変貌した自分の容姿を鏡で見て、私の気持ちは完全に切り替わってる。
廊下の長椅子で心を閉じ、引きこもっていた私とは違う。
今は、聞いてくれる全ての人に素敵な演奏を伝えたい気持ち。
「最終演奏者の矢島さ~ん、頑張ってね、おほほほっ」
去年の最優秀だった子が余裕の表情で嫌みったらしく言ってくる。
直前の演奏を終え、ステージから下りてきたばかりの彼女。
スッキリした余裕の表情で、お嬢様笑いを見せながら控え室に戻っていく。
「さすが二年連続、最優秀……」
ステージの袖で出番を待つ私は、名前を呼ばれるまで目を閉じて立っていた。
ザワザワした会場の雰囲気、早いテンポの派手な楽曲が続く。
直前の演奏は群を抜いて凄かったと小声で話してる声を耳にする。
これで三年連続の最優秀賞は決まりだと、関係者たちも噂していた。
そんな逆境の中で、目を閉じたまま小さな声で呟く。
「私は、一人じゃない……」