大好きな先生と、月明かりが差し込む部屋で過ごした夜


 年配の人が多い。

 これは、私に有利な状況かも。

 直前の楽曲変更だったけど、良い方向に事が進むかもしれない。


 ステージ中央で私が直立したまま動かないので、会場がザワザワし始めた。

 どうせだから、新調したばかりのドレスをみんなに見てもらいたい。

 なんて心の余裕もでてくる。


 赤くて派手な色のドレスを、先生がプレゼントしてくれた。

 優しそうな見た目と正反対の、言うことをきかない頑固な性格。

 そんな私にピッタリの色。

 先生が生徒にドレスをプレゼントって、あんまり聞かないけど……


 深く考えず、素直に喜んで私は受け取る。


 ドレスの裾をフワリと翻しながら背をむけて、私は椅子に腰を下ろす。

 座高を調節してから、大きく深呼吸。

 顔を上げてスポットライトを見つめる。


 漆黒のグランドピアノを目前にしても、緊張しないで落ち着いてる。

 いつもと違う不思議な感覚のまま、私は指先を白い鍵盤の上に乗せた。



 スローテンポで私が弾き始めた楽曲は……



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