大好きな先生と、月明かりが差し込む部屋で過ごした夜


 31歳のベートーベンが、恋心を抱いた17歳年下の少女に贈る曲。

 身分の違いから、結婚を許されなかった切なくて報われない恋。

 弟に振られて、傷心の私が選んだ曲名は……



 ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 作品27の2「月光」第一楽章



 会場の乾いた空気と、細かく舞い散るホコリ。

 ローズウッドの壁に反響して、幻想曲の音色が響き渡る。


 ゆっくりとしたテンポの第一楽章、静かな中に響くメロディを感じる演奏を華麗に弾きこなしていく。

 私の指先から溢れ出るベートーベンの思いが、聞く人の心に共鳴してる。


 感情豊かなピアノの旋律が響き、乾いた空気のコンサートホールを包み込んでいく。



 客席の誰もが口を閉じ、私の演奏に聴き入ってる。



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