大好きな先生と、月明かりが差し込む部屋で過ごした夜
思い腰を上げて玄関へ向かう。
呼び鈴の音が聞こえないのか、優介は二階の自室から姿を見せようともしない。
「寝てるのかしら?」
私が玄関の扉を開くと、両親は笑顔で立っていた。
「ただいま美優、無事に帰ったぞ!」
「ごめんね一年もの間、二人だけにさせてしまって」
父は笑顔で、母は申し訳なさそうに私へ声をかけてきた。
「気にしないで、そんなことより長時間の移動で疲れたでしょう」
母と電話でお互いの状況は連絡していたので、特別な話はすることがない。
ピアノコンクールも会場に行けなくて残念だったみたいだし、音大への推薦入学が決まったときも、すごく喜んでくれていた。
音楽に興味がなくて、幼少の時に私がピアノ教室へ通うことを反対していた父は無反応。
お祝いの言葉は電話でもらえたけど、母ほど嬉しくないような印象を受けた。
リビングには先に贈られてきた荷物でいっぱい。
明日、引っ越し屋さんのトラックが来る手配になってるらしい。
私は、その前に家を出よう。