大好きな先生と、月明かりが差し込む部屋で過ごした夜
家へ戻り、二階にある優介の部屋に入ったら真っ暗で人の気配はない。
「どこへ行ったのかしら……」
そのとき、隣の部屋からピアノの音が聞こえてきた。
「優介のヤツ、私の部屋でなにやってるのよ」
足早に隣の部屋へ向かい、扉をあけると……
明かりも付けずに、薄暗い私の部屋にあるアップライトのピアノを目前にして、椅子に座り乱雑に鍵盤を叩いてる優介の姿があった。
だいたいの荷物は引っ越し先の部屋に贈ったので、何も無い空間に取り残されたピアノだけが存在感を主張してる。
カーテンもなく、街灯の明かりが差し込む薄暗い室内で優介は寂しそうにピアノを弾いていた。
「なにが姉だ……俺は弟じゃなかったのかよ、くそっ……」
乱雑に叩く鍵盤、ピアノから響く音が優介の言葉をかき消してる。
でも、言葉の断片は聞き取れるので、何となく理解できてしまう。
「ずっと好きだった……美優が好きだ、愛してる……」
私は、その言葉を聞いて涙を流してしまう。
一方的な片思いじゃなく、両思いだった。