大好きな先生と、月明かりが差し込む部屋で過ごした夜


「美優!」


 背後から声がして、振り向いたら優介が立っていた。

 先生は気をつかって、先に控え室へ行ってしまう。


 優介から少し離れた場所で、沙也香と子供が見つめてる。


「俺、沙也香と結婚して子供もいるけど……」


 演奏が終わって、ザワザワしたステージ周辺。

 雑音の中で話す小声でも、私の耳には鮮明に聞き取れる。


「またしばらく、優介と会えないね」


「うん、美優の演奏すごかった」


 言葉が噛み合ってない、姉と弟なのに……

 そういえば、私たちは血が繋がってないから他人同士だったね。

 だから好きになってしまったのか、弟ではなく一人の男の子として……


「海外から帰ってきたとき、ゆっくり話しましょう」


「でも、俺はまだ……」


「幼なじみと結婚して、可愛い子供までいる……私の入る隙間なんて無いよ……」


 私は白いドレス姿で目を細め、ちょっとキツイ口調で言ってしまう。

 でもしかたない、本当のことだもの。


 突き放すような言い方でゴメンね、じゃないと気持ちが整理できないよ。

 私が優介に告白した時、心を鬼にして振ってくれた君の気持ちが今は痛いほどよくわかる。



 君の判断は正解だった、ありがとう優介……



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