sweet sweet chocolate

「......先輩の髪、細いよね」

「え?」

唐突な話題は、仲井君の口から落とされる様に始まった。

「猫っ毛っていうの?色素も薄いし、換気で開いてる保健室の隙間風に、簡単に揺れてる」

そっと、覗き込む様に下からわたしを見つめるその目は、さっきまでの子犬の様な目とは、少し違って。

ちょっとだけ、尖ってて。
視線が、痛い。

ふわっとその指先が、わたしの細い髪先に絡む。

「見てたんだよ、俺。よくサボってる、中庭の端っこから」

指先はするりと髪先を抜け、わたしの頬にそっと、沿った。

心臓が止まるかと、思う。

「見てた......って、」

「保健室にたまに来る、風に飛ばされそうな女の子。いつも泣きそうな顔して、ベッドに腰掛けて。でも揺れてる髪の毛が、保健室の空気に透けて、すげぇ綺麗で」

仲井君の瞳は、真っ赤になったわたしの頬を、捉えて離さない。

「泣きそうなその表情すら、綺麗だった。俺、ちょっとその気があんのかな」

くくっと笑うその表情は、後輩なんだってことを忘れるくらい、大人で。
心臓の芯が、痺れる。


「泣かせてぇなぁって、思ってた」


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