親子ほど歳の離れた異性に恋に落ちたことはありますか?

第22話

日が暮れても汗ばむ程の暑さが残る真夏のある夜、僕は仕事を終えて職場のスーパーの従業員駐車場に停めてある車に乗り込みすぐに朋美さんに電話をかけた。
この日は朋美さんは休みだったから、まだ一度も朋美さんの顔を見ていない。
僕は早く朋美さんの声が聞きたくてワクワクしていたのだが、あえてその気持ちを圧し殺して落ち着いてるように思える声色で

「あっ…もしもし?朋美さん?今仕事終わったんだけど、これこら行っても良いですか?」

と、僕の中では朋美さんの応えはyesしかないと思い込んで言ったのだが、その期待は大きく裏切られ、僕のテンションは高度一万メートルから真っ逆さまに超急降下していくような感覚に襲われる。

「ごめんなさい…和ちゃん…今日はちょっと体調がすぐれないの…和ちゃんに具合悪い顔を見せたくないから今日は休ませてもらってもいいかしら?」

体調が悪いのなら尚更側に居てあげたいと思ったのだが、朋美さんからそう言われたら引くしかない…僕は意気消沈して言った。

「あっ…大丈夫ですか?ちゃんと…ご飯は食べてますか?」

「ありがとう…ごめんなさい…心配かけちゃって…今日はずっと横になってたけど、ご飯は食べてるから…ありがとう…」

「……………」

そうですか…それなら…良いんです…朋美さんが…僕を必要としてないのであれば…それで…

「和ちゃん?」

朋美さんは僕が沈黙してしまったのが気まずかったらしく、心配そうに言った。

「あっ…ごめんなさい…あの…朋美さん…ゆっくり休んで下さい…もし、何かあったらすぐに駆けつけるので連絡下さいね…」

「ありがとう、わかった。何かお願いしたいことがあったらすぐに連絡するわね」

「はい…いつでも待ってます」

朋美さん…どうしちゃったんだろう…今までなら体調が優れなくても一緒に居る時間は大切にしてくれたのに…どこか様子が変というか…僕を遠ざけているような感じがしたというか…もしかして何かの病気にでもかかったのかな?
その時はまだ何も疑うことはなかった。
そしてその翌日、朋美さんは体調不良という理由で欠勤した。僕は尚更不安になり、仕事が終わってすぐに朋美さんに電話をした。

「朋美さん?本当に大丈夫なんですか?何か病気してるんじゃ…」

朋美さんは寝起きなのか、それとも具合が悪いのか、声に元気はない。

「和ちゃん、ごめんね…心配しないで…明日はちゃんと出勤するから」

「本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫よ、ありがとう…」

「それなら良いんですけど…少しお見舞いに行きたいな…」

「ごめんね…本当に大丈夫だから…」

やっぱり明らかにおかしい…よほど体調が優れないのか、僕のことを避けてる?
そう思わずにはいられないほど僕と会おうとしてくれない。

と、その時

いつの間に居たのか、僕を誘惑してホテルに誘ってきた梅田さんが後ろから急に声をかけてきた。

「北村君…ちょっといいかしら?」

梅田さんは何やら神妙な面持ちで僕に詰め寄ってきた。

「どうしたんですか?」

僕は警戒しながら言った。

「北村君…鈴木さんのことでちょっと…」

またそれか…僕と朋美さんのことは、例え二人の間に恋愛関係があったとしても貴女には関係ないでしょ?
そう思いながら

「鈴木さんがどうしたんですか?」

と、あからさまに迷惑といった表情で返した。

「実は…鈴木さんは過去に不倫疑惑で色々とあったらしいのよ…けっこう前の話らしいんだけど…あの人あぁ見えて意外と男の遍歴がありそうで…」

男の遍歴?朋美さんに?

僕は動揺して返す言葉が見つからない。そりゃ朋美さんはもう四十を過ぎてるんだから、過去に色々とあっても不思議では無いかもしれない…でも、僕の受ける印象としてはあの人は純粋で、そんなに軽い女性とは到底思えない…

でも…今の朋美さんの行動には、そう言い切るだけの自信が無い…今までとは明らかに違う…何かが違う…このタイミングで梅田さんからそんなことを聞かされれば、僕の心が乱れても不思議ではなかった。

「それは、鈴木さんの問題だから周りがとやかく言うことじゃないと思う…鈴木さんも独身だし大人だし…例えそういうことがあっても自由なんじゃないかな?」

僕は動揺を隠すため、自分を鼓舞して必死にそう言ったのだが…一番それを認めたく無いのは僕自身だった。

「そうなんだけど…鈴木さんと北村君が良い仲だって皆噂してて、そこへ来てそんな話まで聞いたものだから…ちょっとお節介かも知れないけど、北村君の為に教えて上げたいと思って…」

いやいや、そもそも僕と朋美さんの噂を広めたのは梅田さん自身でしょ?もうこれ以上僕と朋美さんの仲を壊すような真似は止めてくれ!

僕は心の中で声を大にして叫んでいた。

「梅田さん…鈴木さんとのことを面白おかしく話したのはあなたじゃないんですか?そのせいで僕らは周りから凄くいやらしい目で見られてきたんですよ?」

梅田さんは目を丸くして驚いていた。

「ちょっと待って…それを広めたのは私じゃないわよ?それは上田さんってパートさんの方よ?」
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