親子ほど歳の離れた異性に恋に落ちたことはありますか?
最終話
「今ならわかるんだよ…朋美さんのことが…いろんなことが今なら全部わかるんだ…癌という病に苦しんで、それでもそんな素振りを微塵も見せずに精一杯頑張って想い出を作ろうとする彼女のことが…」
「主任?」
「僕もね…わかるんだよ…自分の身体だから…もう残された時間が少ないことを…だから、あの時の朋美さんのように動ける間は精一杯生きて、そして彼女が生きた年月までは頑張ろうって…」
実花は全ての意味を理解し絶句した。
「主任…それでも私は…
私は主任を最期まで支えたいです!主任は朋美さんに最期のお別れも言えず後悔したんですよね?ありがとうって言えずに…
後悔………
したんですよね?
私だってこのまま主任が一人淋しく逝ってしまわれたら…
きっと一生悔いが残ります!
だから…側に…居させてもらえませんか?
例え主任の中に今でも朋美さんが居てもかまいません!
それでも…」
僕は実花の気持ちが痛いほどわかる。実花とは共に過ごした時間こそ無いけれど、一人の人を好きになる切なさは同じだ。
「ありがとう…君の気持ちは僕の胸にしまっておくよ。
でも………
この残された時間は僕の懺悔の時間として使わせてくれないか?
ちょうど今の僕は…朋美さんの生きた…そして僕と知り合い沢山の想い出を作ったあの時の朋美さんと同じ年齢なんだ。
朋美さんはこの歳で最後の恋愛をし、そして全力で生きて…
そして孤独に…
今の僕の心の中には………
朋美さんが一緒に生きてるんだ…
いつも僕の中で笑って…
そして愛し合って…
でも…僕は朋美さんを裏切ってしまったから…
向こうでは一緒になれないかもしれないな…
それでも…
僕は永遠に朋美さんを想い続けていく…」
実花はその場で泣き崩れてしまった。
僕はそっと実花の肩に手をやり、そしてゆっくりと立たせた。
「君は、まだ若い。まだまだ沢山の恋愛を経験していくだろう。その時、絶対に後悔するような生き方をしないで欲しい。
安西君…
ありがとう…
そして…
サヨナラ…」
実はこの日をもって僕は会社を退職していた。
偶然にもこの最後の日に実花は告白してきた。
僕はその後、身辺整理をしてから自分の死後のことも全て算段を付けた。
僕の病室のベッドの側にある机には、数枚の写真が並んで置いてある。
毎日僕はその写真を一枚一枚手に取り、朋美さんとの想い出に浸りながら独り言を喋っていた。
看護師さんは僕の病状を知っていて、残り少ない最期の時間をそっと見守ってくれた。
僕は毎日看護師さんが来る度にあと~日は頑張って生きるよ。と言った。
それは朋美さんの命日を忘れない為だった。日に日に衰弱し抗癌剤治療の副作用で変わり果てて行く身体にムチを打ってその日を迎えるのを僕は心待ちにしていた。
本当はもうこの苦痛から解放して欲しいと思うほど辛くて苦しくて、楽になりたいと思う気持ちもあったが、朋美さん自身も耐えた痛み苦しみなんだ。
やがて僕は日付がわからないほどに弱っていった。朦朧とする意識の中で、看護師さんにあと何日ですか?と聞くこともしばしばだった。
そんなある日、僕の身体に異変が起きた。
目が覚めると不思議と全く身体に痛みも辛さも感じないのだ。こんな日はなんと久しぶりだろうか。僕は起き上がりフラッと病室を出た。そして、何故なのかわからないが足が勝手にどこかの病室へと向かっていく。
まるで吸い込まれるかのように…
そして着いたその病室の入り口には…
ー鈴木朋美ー
と書かれたネームプレートが貼られていた。
朋美…さん?どうして?ここは朋美さんの病室なの?
僕はその病室の中へ入って行くとベッドには朋美さんがニコッと笑って座っていた。
僕はあまりの嬉しさに朋美さんの胸に飛び込んだ。僕は朋美さんの胸の中で男泣きに泣いた。
そして朋美さんが
和ちゃん…よく今日まで頑張ったね…ありがとう…
そう言って僕の頭を優しく撫でてくれた。
僕は泣きながら朋美さんに
ごめんなさい…ごめんなさい…
僕は…
貴女を…
信じきることが出来なかった…
僕はやっと朋美さんに謝ることが出来て嬉しかった。
ずっとずっとこの言葉を言いたかった。
朋美さんは優しい笑顔で微笑みかけてくれた。
和ちゃん…もう良いのよ…
もう我慢しなくてもいいの…
もう楽になって…
一緒に行こ?
僕はその言葉に全てのしがらみから解放されたような気分になれた。
僕と朋美さんは手を繋いでこの病室から歩きだす。
温かな陽射しが僕たちを照らし、どこまでも二人で歩き続けた。
それは僕たち二人にとって永遠の想い出作りの旅となる。
ねぇ和ちゃん、今度はどこに行こっか?
僕は朋美さんの行きたいところならどこでも一緒に行きますよ
ー享年44ー
病室のベッドで北村和也死去…
それは朋美の命日であった…
和也を苦しめたのは、朋美と同じ胃がんが全身に転移したものであった。
しかし和也のその顔は、癌と闘った者の顔ではなく、正に幸せそのものといった安らかな死に顔であった。
和也の棺には、和也が最後に手に握りしめていた数枚の写真と共に納められた。
あなたなら…無条件で愛する人を信じきることが出来ますか?
「主任?」
「僕もね…わかるんだよ…自分の身体だから…もう残された時間が少ないことを…だから、あの時の朋美さんのように動ける間は精一杯生きて、そして彼女が生きた年月までは頑張ろうって…」
実花は全ての意味を理解し絶句した。
「主任…それでも私は…
私は主任を最期まで支えたいです!主任は朋美さんに最期のお別れも言えず後悔したんですよね?ありがとうって言えずに…
後悔………
したんですよね?
私だってこのまま主任が一人淋しく逝ってしまわれたら…
きっと一生悔いが残ります!
だから…側に…居させてもらえませんか?
例え主任の中に今でも朋美さんが居てもかまいません!
それでも…」
僕は実花の気持ちが痛いほどわかる。実花とは共に過ごした時間こそ無いけれど、一人の人を好きになる切なさは同じだ。
「ありがとう…君の気持ちは僕の胸にしまっておくよ。
でも………
この残された時間は僕の懺悔の時間として使わせてくれないか?
ちょうど今の僕は…朋美さんの生きた…そして僕と知り合い沢山の想い出を作ったあの時の朋美さんと同じ年齢なんだ。
朋美さんはこの歳で最後の恋愛をし、そして全力で生きて…
そして孤独に…
今の僕の心の中には………
朋美さんが一緒に生きてるんだ…
いつも僕の中で笑って…
そして愛し合って…
でも…僕は朋美さんを裏切ってしまったから…
向こうでは一緒になれないかもしれないな…
それでも…
僕は永遠に朋美さんを想い続けていく…」
実花はその場で泣き崩れてしまった。
僕はそっと実花の肩に手をやり、そしてゆっくりと立たせた。
「君は、まだ若い。まだまだ沢山の恋愛を経験していくだろう。その時、絶対に後悔するような生き方をしないで欲しい。
安西君…
ありがとう…
そして…
サヨナラ…」
実はこの日をもって僕は会社を退職していた。
偶然にもこの最後の日に実花は告白してきた。
僕はその後、身辺整理をしてから自分の死後のことも全て算段を付けた。
僕の病室のベッドの側にある机には、数枚の写真が並んで置いてある。
毎日僕はその写真を一枚一枚手に取り、朋美さんとの想い出に浸りながら独り言を喋っていた。
看護師さんは僕の病状を知っていて、残り少ない最期の時間をそっと見守ってくれた。
僕は毎日看護師さんが来る度にあと~日は頑張って生きるよ。と言った。
それは朋美さんの命日を忘れない為だった。日に日に衰弱し抗癌剤治療の副作用で変わり果てて行く身体にムチを打ってその日を迎えるのを僕は心待ちにしていた。
本当はもうこの苦痛から解放して欲しいと思うほど辛くて苦しくて、楽になりたいと思う気持ちもあったが、朋美さん自身も耐えた痛み苦しみなんだ。
やがて僕は日付がわからないほどに弱っていった。朦朧とする意識の中で、看護師さんにあと何日ですか?と聞くこともしばしばだった。
そんなある日、僕の身体に異変が起きた。
目が覚めると不思議と全く身体に痛みも辛さも感じないのだ。こんな日はなんと久しぶりだろうか。僕は起き上がりフラッと病室を出た。そして、何故なのかわからないが足が勝手にどこかの病室へと向かっていく。
まるで吸い込まれるかのように…
そして着いたその病室の入り口には…
ー鈴木朋美ー
と書かれたネームプレートが貼られていた。
朋美…さん?どうして?ここは朋美さんの病室なの?
僕はその病室の中へ入って行くとベッドには朋美さんがニコッと笑って座っていた。
僕はあまりの嬉しさに朋美さんの胸に飛び込んだ。僕は朋美さんの胸の中で男泣きに泣いた。
そして朋美さんが
和ちゃん…よく今日まで頑張ったね…ありがとう…
そう言って僕の頭を優しく撫でてくれた。
僕は泣きながら朋美さんに
ごめんなさい…ごめんなさい…
僕は…
貴女を…
信じきることが出来なかった…
僕はやっと朋美さんに謝ることが出来て嬉しかった。
ずっとずっとこの言葉を言いたかった。
朋美さんは優しい笑顔で微笑みかけてくれた。
和ちゃん…もう良いのよ…
もう我慢しなくてもいいの…
もう楽になって…
一緒に行こ?
僕はその言葉に全てのしがらみから解放されたような気分になれた。
僕と朋美さんは手を繋いでこの病室から歩きだす。
温かな陽射しが僕たちを照らし、どこまでも二人で歩き続けた。
それは僕たち二人にとって永遠の想い出作りの旅となる。
ねぇ和ちゃん、今度はどこに行こっか?
僕は朋美さんの行きたいところならどこでも一緒に行きますよ
ー享年44ー
病室のベッドで北村和也死去…
それは朋美の命日であった…
和也を苦しめたのは、朋美と同じ胃がんが全身に転移したものであった。
しかし和也のその顔は、癌と闘った者の顔ではなく、正に幸せそのものといった安らかな死に顔であった。
和也の棺には、和也が最後に手に握りしめていた数枚の写真と共に納められた。
あなたなら…無条件で愛する人を信じきることが出来ますか?