俺はずっと片想いを続けるだけ**おまけ
今なら何とか言えたかもしれないが、初等部児童からしたら教師は魔王くらいの力の持ち主に見えていて、友人を庇うことは出来なかった。

そしたら、グレイスが立ち上がって自分の持参してきた刺繍糸を友人の机の上に置いた。

静かに冷たい声で、グレイスは教師に向かって言った。

『私は今日以降、貴女の授業は受けません』

その一言だけで、あいつが家庭科室に戻ることはなかった。


児童が起こした授業妨害だと少し問題になったようだけど、他の授業はちゃんと受けてるし、 
初等部には落第などなくて、
『要注意人物』のグレイスはそのまま、特に処分されなかった。


家庭科の授業の時は、ひとり他の教室で何かやらされていたと思う。
中等部になって家庭科担当の教師が変わって、
授業に参加し始めたが、グレイスの刺繍の腕前は最悪だったらしい。


それが俺の初恋の話だ。
ただ、それだけの話だ。


 ◇◇◇


本屋の前で友人と別れた。
俺は王都の大通りの雑踏を歩くのが好きだ。
またまたポエミーをつぶやかせてもらうと、
大勢の中にいると、ここにいてもいいよと誰かに許された様な気分になって、そこが好きだった。


夏になる前の夕方、このままぶらぶら歩いてウチに帰ろうか、
それとも辻馬車を拾うか、迷いながら歩いていた俺の右肩を誰かが掴んだ。



石畳の上に倒れて折れてしまった右肩を掴まれたのだ。
完治している訳じゃない。
激痛で誰が掴んだのか確認出来ないまま、細い通路に連れ込まれた。

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