彼氏がいるけど年下の男の子を好きになりました。
寒い冬の夜に、コートを着て外に出た。
「出掛けてくるね」
返事なんてあるわけもない。
それでいい。
このコートは、就職して一年目に買ったお気に入りのコートだ。
彼氏は一目見て「子供っぽくてダサい」と言ったのでずっとタンスに仕舞っていた。
雪が降りそうなどんよりとした寒い夜空の公園のベンチで、家から持ってきた缶チューハイを飲んだ。
もう彼氏とは終わりだ。
あんなに好きだったのになぁ。
いいところもいっぱいあるはずなのに、今は何も思い出せない。
これからどうしよう。
一人暮らしをしながら仕事を続ければいいだろう。
結婚したって離婚する人たちは大勢いるのだ。
私はまだ傷が小さい内に踏ん切りが付いてよかったと思うべきだろう。
早く孫が見たいと言っていた両親は、三年前旅行に行く際乗っていた飛行機が墜落して亡くなった。
彼氏は仕事だからと側にもいてくれなかった。
あの時に別れていればよかった。
それよりも前に、仕事だと言って私の誕生日デートをすっぽかした時に別れてもよかった。
楽しかったこともいっぱいあるはずなのになぁ。
久々にお酒を飲んだからか涙が出てくる。
わんわん泣いた。
「お姉さん、こんな時間に一人は危ないよ」
男子高校生が自転車で通りかかったみたいだ。
「私のことは気にしないでください」
「いや、だってここの公園は……」
私とその子が会話をしていたら、黒い服を着た人が黒い大きな袋を担いで通り掛かり、ゴミ箱にその袋を捨てた。どさりを大きな音がした。
そして、月も出ていなくてほとんど街灯もないこの場所で、じっと十秒ほど私とその子を観察してきた。
ぞっとした。
今は夜の十時くらいだろうか。
なのにサングラスをしていた。
そして、その人はまたスタスタと歩き去っていった。
それだけなのに恐怖を感じた。
そうだ、ここの公園は三ヶ月前にゴミ箱からバラバラ死体が出てきて、犯人が見つかっていないのだ。
高校生の子が「乗って! 早くここから離れよう!」と自転車の荷台に私を促した。
私は乗って、その子にしがみついた。
その子は全力で漕いでくれて、公園の少し先の民家まで走り切った。
「父さん母さん! 公園で変な人がいた!」
半泣きで家の人に縋っている。
さっきまでは結構格好良かったのに、急に子供っぽくなってしまった。
それも当然だと思う。
私だって今ここに両親がいたら大泣きしてしがみつくと思う。
公園の道を通ったことを滅茶苦茶怒られてから、私のことと見た人のことをちゃんと説明してくれた。
「あなたは、どうしてこんな時間に……?」
ごく普通のことを聞かれた。
「彼氏と別れまして……」
ご両親と高校生の子は「あ」と黙ってしまった。
そして警察に連絡してくれた。
ただの不法投棄の人かもしれない。
そうだったらいい。
三ヶ月前に公園のゴミ箱には、丹念に焼かれた身元不明の頭部が入っていたそうだ。若い女性の物が、黒い大きなゴミ袋に入れられていたらしい。
駐車場の防犯カメラによると全身黒尽くめの人が袋を担いで映っていたそうで、捜索をしていたが未だ発見されていない。
「お姉さん、取り敢えず大丈夫だから。今日はウチに泊まればいいし。だから泣かないで」
涙が止まらないし震えも止まらない。