【コミカライズ配信中】婚約破棄したお馬鹿な王子はほっといて、悪役令嬢は精霊の森で幸せになります。(連載版)

三十四 村に咲いた真っ白な花

 花見当日。精霊の森からグルの転移魔法で村まで移動した。

 待ち構えていたグレとチタは、待っていましたと言わんばかりに私とグルに抱きついた。

「きゃっ、グレちゃん、チタちゃん!」
「チタ、兄貴?」

 二人の瞳はキラキラ光り、興奮しているのがわかる。

 そして、グレは小さな体でグルのズボンを引っ張った。

「グル、エルモちゃん、こっち来て、スゲェぞ!」

「そう、そう、驚いちゃって泣いちゃうかも!」

 グレとチタが前を歩き、その後ろを着いていくと、村の中央の木――フェリチタの木に真っ白で、桜に似た花が満開に咲いていた。

「キレイ、すごくきれい……こんなに綺麗な花を咲かすのね」

「ああ、綺麗だな……クッ、昔をおもいだす」

 フェリチタの花をみて、昔を思いだして目頭をこすった。

 そんなグルの姿をみて、グレとチタも涙目になって、みんなで泣き笑いしていた。

(よかったね、グルさん、グレちゃん、チタちゃん)

 グルは静かなエルモに気付き、目を細める。

「ちょっ、エルモ、泣きすぎ!」

「ふぇ?」

 グルに言われるまで気付かなかった……

「わぁ、ほんとうだ」
「アハハッ、ボロボロだぁ!」

「だって……うれしいの」

(嬉しくて、涙がとまらない。……ほんとうに好きで、この村のスチルを画面越しに眺めていた。その花が私の目のまえで咲いている……こんな幸せなことはないわ)
 
「エルモ……」

「グルさん、グレちゃん、チタちゃん……村のみんなだって……このフェリチタの花をみて喜ぶわ」

 涙でボロボロの顔で笑った。

「そうだな、エルモちゃん。村のみんなもぜったいに喜ぶ! 今度の満月は村で酒を酌み交わそう!」

「いいね、いいね! こんどの満月はにぎやかになる!」

「いいな。俺からばっちゃんに話しておくよ。みんな喜ぶぞ!」

「ああ、よろこぶな。でも、オレはもっとみんなを喜ばす方法を知っているぞ。グルとエルモちゃが……」

 と言い。

 グレは私たちに向けて口を何度も尖らした。それはまるで私とグルにキスしろといっているみたい。

 そんなグレを見たチタも悪ノリして。

「黒ちゃんとエルモちゃん、チュウだ。いまここでチュウするの!」


「「えっ!」」


 グレとチタは――しばらく"チュウチュウ"とうるさかった。
< 109 / 179 >

この作品をシェア

pagetop