【コミカライズ配信中】婚約破棄したお馬鹿な王子はほっといて、悪役令嬢は精霊の森で幸せになります。(連載版)
 アルベルトは二人の会話が聞こえないくらいに、グルの大きさに怯えている。――そして、乗っていた馬から落ちガタガタ震え、腰を抜かしているようにみえた。

 あまりにもガタガタ怯える、アルベルトにグルは近付き見下ろして。

「大切な兄貴は返してもらう。お前は今すぐ、ここから消えろ! ……そうすれば助けてやる」

「は、はひぃ……き、消えます、すぐに消えます。……すみませんでしたぁ」

 いつもの余裕がなくアルベルトは乗ってきた馬にまたがり、来た道を慌てながら戻っていく。
 


 それを見送るグルとグレ、エルモ。
 三人はこれからいくつかの国境を越えて、毒草を消しにファーレズ国にいかなくてはならない。

「俺が……く、クァ、グション!」

 とつじょでたグルのくしゃみに驚き、アルベルトは"また"馬から落ちる。

 そのとき――手綱を離してしまったのか、馬に逃げられて、そのあとを走っていく姿が見えた。

「え――っ、マジか。アイツ、グルのくしゃみに驚いて馬から落ちたぞ?」

「はぁ? ビビリだなぁ……チッ、弱いやつには強いってやつか――なさけねぇ。さんざんエルモに嫌がらせをしたくせに、強いものをみると逃げ腰かよ!」

 グルはあきれた声をあげる。

 ほんとうだとエルモも思った。あんなに強気なアルベルトがグルをみて、怯えるなんて思っていなかった。

 ――少し、いい気味だって思っちゃった。

 

 なさけない、アルベルトの姿もみえなくなり、本題にはいる。

「それで、グル。遠い、ファーレズまでどうやっていくんだ?」

「うーん。そうだな、いまから朝になるまで魔力も使って全速力で走る。……夜が明けて元に戻ったら、宿屋で休んで馬か荷馬車を買うかな」

 グルの提案に頷くグレ。

「それがいいな……エルモちゃん、しっかりグルに捕まるんだぞ! グルの魔力と併合して走るから……飛ばされるぞ」

「はい、わかりました」

「じゃ、いくぞ!」と。グルは国境を普通に通らず、助走をつけ塀を軽々飛び越えて、ファーレズ国にむけて走りだした。

 

 おわわ、ほんと早い……

 全速力で走りだしたグルは馬よりも早い。エルモは振り落とされないようにグレと背中に捕まった。
 
 ――すごい速さだわ。

「エルモ! 遠慮なく俺に抱きつけ!」

「うん」

 ひとつ、国境を超えたら持ってきた地図を見て確認して、一休みしながら夜通し走り、何個目かの国境を超えた。地図を見ると、あと一つ。……あとひとつ国境を超えたら――ファーレズ国にはいるところまで来ていた。

 ーー私は帰ってきたんだ。

「兄貴、エルモ、国境を超えてファーレズ国に入ったらやすむ!」
 
「はい、わかりました!」

 グルは国境を飛び越えファーレズ国にはいる。そして――近くにみつけた森で日が明けるまで寝ることにした。

 その、眠る前にグレは。

「あ、あのさ。グル、エルモちゃん! ……オレ、ほんとうは心細かった、怖かった……迎えにきてくれて嬉しかった、ありがとう。一緒にファーレズまできてくれてありがとう!」

 と、胸の内を語る。

「「そんなの、あたりまえだよ!」」

 グルとエルモは笑ってこたえた。
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