【コミカライズ配信中】婚約破棄したお馬鹿な王子はほっといて、悪役令嬢は精霊の森で幸せになります。(連載版)

五十

 荷馬車を操縦するグルの隣に座り、エルモは景色を眺めていた。

 婚約破棄後はゆっくりと景色を見ている余裕がなかった。

 ここ――ファーレズ国はこんなにも緑豊かな国だったんだと、いまさらながら気付いた。

(もうこの国からはでてしまっているし、いまは婚約者のグルさんのそばにいる――未練はないわ)

 エルドラッドのことも、エルモなかでは昔のことになっていた。

「エルモ、なにか考え事?」

 荷馬車をあやつりながらグルは隣で景色をみてだまる、エルモが気になり話しかけた。

 もしかしたらファーレズ国がいいと、グルの側からいなくなる、そんな胸さわぎがしたから。

 でも、エルモは笑って。

「こんなにファーレズは綺麗な国だったと。ここにいたときは景色をみる余裕もなかったことに、今更ながら気付いの」

「それで、ファーレズに帰りたくなった?」

 スルッと口から本音とは裏腹の言葉がでて、グルは驚く。

 それを聞いたエルモが隣でプックリ、頬を膨らませた。

「……なるわけないのに、ひどい」

 さっき――エルモと結婚、旅行の話をしていたから、そういわれるのも仕方がない。それでもグルは懐かしそうに景色を眺める、エルモにどうしても確かめたくなってしまったのだ。

「ごめん、あまりにも懐かしそうに眺めるから……」

「それは……十八年までファーレズに住んでいたから、懐かしくおもったわ。でも、私の帰る場所はグルさんの腕の中だからね」

 言った途端に頬を真っ赤にしたエルモに、グルの頬も熱をもつ。それはエルモの口から聞けたからで、グルはそれだけで舞いあがる。

「うれしい。帰ったらエルモをたくさん、甘やかしたい」

 荷馬車を器用にあやつり、グルはエルモに近寄り頬をすり寄せる。

 精霊獣のときのグルではなく、いまのグルにされて、ますます赤くなるエルモを愛おしさがつのる。

 もう一回とグルはエルモに手を伸ばしたが。
 
 荷台から。

「仲の良い夫婦のおかげで、村のフェリチタの花が咲くな……嬉しい」

「グ、グレちゃん?」
「兄貴!」

 荷台で、グッスリ寝ていたはずのグレが顔をだした。

「チェッ、兄貴は盗み聞きかよ」

「いいだろう! 可愛い弟とその嫁のことだからな。仲が良くてなにより!」
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