【コミカライズ配信中】婚約破棄したお馬鹿な王子はほっといて、悪役令嬢は精霊の森で幸せになります。(連載版)
「……ハァ、しかたねぇ。面倒だがばっちゃんのところに行かないと」

 男はキッチンにむかい、置いてあるパンをかじると。
 棚から湯沸かしを取り魔法で水をだして、コンロに火をつけてお湯を沸かし、一人分のコーヒーをカップにそそいだ。

 いま、魔法を使った?

 そして、一連の動作に見惚れて気付かなかった。
 この人がいまかじったパンは、エルモがもってきたパンだということを。

「それ、私のパン……」
「これお前のパンか? どおりでいつものよりうまいな、少しもらった」

「も、貰った、じゃありません」

 その大きさなら二日は余裕であるのに。
 せめてナイフで切って、食べて欲しかった。
 
「クックク、泊めてやった宿代だ」

「宿代? いやです。私はこの家から出て行きません」

「おいおい、出て行かないって。ここは元からここは俺の家だ、お前は自分の家に帰れ!」

 自分の家……

 私は首を振る。

「い、家はむりです……帰れません」
「はぁ? お前、まさか家出か?」 
「違います………追い出されました」
「追い出された?」

 男はエルモが家から追い出されたと聞き。
 何も言えなくなったのか、エルモに半分かじったパンと飲みかけのコーヒーをくれた。

「ありがとう……でも。これ食べかけのパンと、飲みかけのコーヒーですけど?」
「ちょうどコーヒー豆が切れた、要らないのだったら返せ、俺が飲む!」

「嫌です! ………あ、あの、それと何か服を着てください」

 この人、ずっとパンツ姿だった。

「あ? 自分の家の中でどんな格好をしようと、俺の勝手だ」
「それはそうですけど……か、風邪をひきますよ」

「フン、ひかねーよ」

「…………っ」

 そっちがその気ならエルモだって気にしない。
 しっかりとパンツをみた後だし。
 男がくれたパンをかじり、飲みかけのコーヒーをひと口飲んだ。

「………甘くて、美味しい」
 
 いつもは紅茶ばかりだったから、コーヒーを飲むのは久しぶり。
 男はコーヒーを嬉しそうに飲むエルモをみて、奥の部屋へと消えていった。
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