【コミカライズ配信中】婚約破棄したお馬鹿な王子はほっといて、悪役令嬢は精霊の森で幸せになります。(連載版)
 乙女ゲームのように動かず物語を変えた、だから終盤になっても、黒い精霊獣はエルモの前に現れなかった。

 そのとき思ったの。もしかして私のわがままで、黒い精霊獣の存在を消してしまったと……

 よかった。

 あなたは消えていなかったのね。いま、村の中央広場で、仲間と楽しそうに戯れあいお酒を飲む。

「……ティーグル」

 エルモは感動のあまり、しらずに彼の本名を呼んでいた。


「おい、お前はなぜ? その名を知っている?」

 何処らから、聞き覚えのない男性の声が聞こえた。 

 エルモはハッとして辺りを見回すも、月明かりの下、声の主の姿は見えなかった。

「……だ、誰?」

「誰でもいい! 何故? お前は奴の本名知っている? その名は心を許した者にしか教えない名だ!」

 本名? 
 心を許した?

 し、しまった。黒い精霊獣に感動して、しらずに彼の名前を呼んでいた。

 この姿のみえない声の主に。前世、乙女ゲームで知ったと言っても信じないだろう……なんとか誤魔化すしかない。

「しょ、書庫に置いてあった書物……そう、書物に載っていたの……」

 ああ、なんて苦しい言い訳……

「書物だと……そんな事あるわけない! お前は嘘つきだな。――だが、いまは追求しないでいてやる……」

「…………」

「追求しない代わりに、オレはお前に聞きたいことがある」
「私に聞きたいこと?」
「そうだ、お前はアレをみて恐怖しないのか?」

 アレとは? 
 
「広場で酒盛りをしている奴らだ」

「広場で酒盛り? そこにいる獣人たちこと?」

「そうだ、お前と見目が違う人種だ、怖くはないのか?」

 ーーあの人達が怖い?
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