【短】失恋スタートライン
On Your Mark
「おばあさん、大丈夫?」
「悪いねぇ」
「全然。歩ける?」
「またこけても困るし、ちょっとあそこで休憩するよ」
「そっか。じゃあそこまでおぶるから乗って」
街中で派手にこけてしまったおばあさんに優しい笑顔を向ける、同じ制服を着た男の子。
長袖の白いシャツをまくっていて、ほどよく着崩している。
ネクタイは青色、ということは私と同じ2年生。
ストレート気味のサラサラな黒髪が風になびいて、彼の爽やかさを際立たせる。
いい人だ……!
周りはおばあさんに見向きもしなかったにも関わらず、あの男の子は一直線におばあさんに声をかけた。
当たり前のように知らない人にも手を差しのべて優しくする。
そういう人は、勉強ができる、運動ができる、顔が整っている。
どこか大きく目立つ才能があるようなそんな人より、何倍もかっこいいと思う。
誰かに優しくできる。
その一面だけで恋に落ちるなんて、私は単純かもしれない。
けど、それ以外に好きになる理由なんていらないとも思った──。