待てない柑士にひよりあり ~年上御曹司は大人げなくも独占欲が止められない~
プロローグ
「そう固くなるな、大丈夫だから」
そう言われた相手を見上げると、彼の目はとろりと甘くて優しい。
最初に会ったときとはまるで別人だ。
彼に最初に会ったのは、たった二週間前のこと。
まさかそんな相手と婚約して、今、ベッドの上で組み敷かれていることが信じられない。
彼は私より一回りも年上で、こういうことにも慣れている。
だからこそ安心して身を任せた、はずだった。
少し不安になって彼を見上げた瞬間、唇に小さなキスが落ちる。
これまでキスを交わしたのはたった二回で、これは三回目のキス。
たった二週間で、二年もかけて好きになって一年付き合っていた“あの人”より多くキスを重ねているなんて信じられなかった。
唇を離したと思ったら、初めての長いキスを交わす。
これが、四回目。
はじめての長いキスに身体が固まったまま唇が離れると、彼は大きな熱い手のひらで私の頬に触れた。
「ただ、最初のキスのときみたいに、他の男の名前は呼ぶな。優しくしてやれなくなる」
少し脅しがかった言葉に身体がビクリと跳ねる。
彼はここまで自分のものだと主張するように、髪を一束持ち上げて、髪先にもキスを落とした。
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