待てない柑士にひよりあり ~年上御曹司は大人げなくも独占欲が止められない~
くせ毛のあるアッシュブラウンの短い髪、くっきりした二重瞼で嫌われることのない優しい顔立ち。身長は176センチで細身の彼は、弟キャラのようにみんなに愛されて営業部3年目にして成績はずっと右肩上がり。営業部エースの名を欲しいままにしていた。
私の自慢の同期でもある。
彼は頷き、少し恥ずかしそうに微笑む。
それを見て、私の胸はドキンとした。
ふいに彼がこちらを向く。またドキドキしていると彼はまっすぐこちらに歩いてきた。
(結婚って……。もしかしてサプライズプロポーズされるとか……)
そんな幸せな、決して可能性が零ではない想像をする。
彼と私は一年付き合っていたが、一か月前にはじめて喧嘩をした。
その日の夜に、別れよう、と一言だけメールがきて、話し合おうとしても同じ社内なのにひたすら避けられた。
私はそれに、はいとも、いいえとも答えていないので、実際に別れているかどうかも疑わしい状態なのだ。
そんな状態で一か月が過ぎていた。
そして、この『結婚する』という話だ。
のんきな私は、きっと『この前はごめん、結婚しよう』とでも言われるのかと思っていた。
高鳴る胸を押さえたとき、彼は私の横を通り過ぎ、隣の席の椎野麗奈の手を引いた。
彼女が恥ずかしそうに立ち上がり、彼の隣に立つ。