待てない柑士にひよりあり ~年上御曹司は大人げなくも独占欲が止められない~
「彼が、出世欲が強いっていうのは私もちゃんと知ってたの。ISEZAKIの専務の娘と結婚なんて間違いなく出世コースだし。実際、椎野さん、すごくいい子だし、かわいいし。子どももいるんだから、私が騒げば騒ぐほど、椎野さんも傷つくよ」
椎野さんは専務の娘、という立場をかさに着ない、いい意味で、フラットで優しい子だ。
私の一つ下で、私の初めての後輩。入社して一年は私が面倒を見ていた。
私と彼の付き合いは会社では秘密にしていたし、椎野さんも知らなかっただろう。
そんな彼女が妊娠して嬉しそうにしている姿を、今からぶち壊すつもりはない。
「それでもさ、おかしいものはおかしいよ。私が代わりに復讐してあげる!」
和美は突然、なんだか物騒なことを言い出した。
「し、しなくていいよ。絶対しないで!」
私は思わず叫んでいた。なんで、と眉を寄せる和美に私は加える。
「こう言っちゃなんだけど、ちょっと安心したの。私の恋愛のペースは遅すぎて、彼に合わせてあげられなかったから」
「ひより……」
「別れてみれば、私と壮一はたった一回キスしただけで、そもそも本当に付き合ってたのかも怪しいくらいだったんだよ」
そう言って笑う。