待てない柑士にひよりあり ~年上御曹司は大人げなくも独占欲が止められない~
「これは、お前のものか」
ギリ、と音がするほど睨まれて、完全に時が止まった。
しかし、慌てて頭を下げる。
「す、すみませんでした!」
「どう始末をつけるつもりだ」
「し、始末って……」
私が言うと、男は私をじっと見つめる。
その痛いくらいの視線に、私の背中はじっとりと汗ばんだ。
「と、ととととととにかく、本当に申し訳ありませんでした!」
謝り倒して、方向転換。のち、逃走。
(悪いことには悪いことが重なるのね⁉)
心の中で叫んで走りながら、相手との差が広がるのを感じた。
男を振り切ってふと我に返ると、急に裸足の右足の裏が冷たい。
突然彼が結婚してしまったことや、痛い足の裏。お気に入りのパンプスを置いてきてしまったこと。
それらを全部ひっくるめて悲しくなった夏の夜だった。