待てない柑士にひよりあり ~年上御曹司は大人げなくも独占欲が止められない~
頬が熱くなるのを感じて、両手で頬を覆う。
彼はまだ髪を撫でながら口を開いた。
「無理はするな。会社にはこちらから連絡を入れておく」
「それは……」
言葉に詰まった私を気にせず、もう一度抱きしめると唇にキスを落とされる。
「今日くらい言うことを聞け」
強い言葉なのに後頭部を撫でる手は優しい。
この人が、最初の人で良かった、と思った途端、彼は耳元で囁く。
「その、ベッドでさんざん泣いたあとの顔も、喘いでかすれた声も、他の誰にも見せたくないし聞かせたくないんだ」
「……っ!」
それは優しさなのだろうか。ただの意地悪のような気もしてしまう。
固まっていると、「わかったな?」と彼は優しく頬を撫でる。
「わ、わかりました。お休みします。でも連絡は私がします」
「いいのに」
「だって、柑士さんがきたらみんなが緊張するでしょう」
「気にする必要などないだろ」
「周りが気にするんです」
思わず言い返すと、柑士さんは苦笑して、「仕方ないな」と言ってやっと引き下がってくれた。
(私がわがままを言ったみたいになってない?)
こんな理由で休むのも社会人失格だと思うが、三年目にして有給はたまったままだし、今は繁忙期ではなく、今日は急ぎの仕事もないから悪いタイミングというわけではなかった。