待てない柑士にひよりあり ~年上御曹司は大人げなくも独占欲が止められない~

 その日は経理月締め処理のせいで、バタバタとしていた。
 色々考えなくて済むから、むしろ、バタバタとしていてよかったと思う。

 終業時間がとっくに過ぎたところで、海外のカードの領収書を出したのは、顔が怖いことで有名な海外事業部の毒島課長だ。

「密石ちゃん、これ、何とかならないかなぁ」

 毒島課長は、いつのまにか私のことを名字にちゃん付で呼んでくるようになった。

 最初はお断りしていたが、最終的に毒島課長の根気が勝って、そのまま呼ばれているというわけだ。

 そんな毒島課長は、時折、高額の経費を事前申請なしに落とそうとするので経理課から冷たく突き返されているが、海外とやりとりして早急な対応が必要となる特性上、よくよく事実確認してみれば無下にできない事案も多い。

「事前申請されてない上に、カード明細だけじゃ経費になりませんよ」
「そこをなんとか」
「私に頼まれても困ります。とりあえず、これ後払い申請書なんで、稟議通して正規のルートで申請してください」
「うう……」

 鬼の目にも涙。私は、う、と言葉に詰まる。
 忙しいのは百も承知だが、必要なものは必要で処理は曖昧にできない。

 それは、あとのことを考えたら余計だ。
 私は一つ息を吐くと、毒島課長を見る。

「関連費用で通ったことはありますから、大丈夫ですよ。申請書はこちらでデータ入れられるところを入れてお送りします。きちんとデータ入力して申請さえしてもらえれば通ります。それに、今きちんとしておかないとどのみち年度末の監査通りませんし、ここは面倒くさがらないほうがいいです」
「なんだかんだ優しいな! さすが密石ちゃん」
「どうも」
「お礼に今度食事にでも――」

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