待てない柑士にひよりあり ~年上御曹司は大人げなくも独占欲が止められない~
なんとなく気になって、帰りに兄のマンションに寄ってみた。
そこは昔祖父の住んでいた家とベーカリーの部分をつなげてマンションをたて、今は兄が住んでいるのだ。
私が育った土地でもあるので、マンションになってしまった今でもそこが実家のような気がしている。
私が行くと、タイミングよく兄に出くわした。
私は自分の作ったパンを持ってきていて、それを見て兄はコーヒーを入れて一緒に食べよう、と笑った。
コーヒーを一口飲み、私は口を開く。
「会社の方は、どう?」
「本当にありがとう。ISEZAKIのおかげで、融資もおりてこのままいけば軌道に乗せられそうだ」
兄が笑い、私はほっとしていた。
「それよりひよりのほうは、どうだ?」
「うん。柑士さん優しいし、大丈夫。むしろ、柑士さんみたいな素敵な人の相手が私で良かったのかな、と思うくらい。このお見合いって兄さんが頼んだんだよね?」
「え? まさか。いくら知ってる相手だからって、さすがに俺でもそんな無謀なことはしない」
「……え?」
柑士さんから頼むわけないからそうだろうと、何故か勝手に思い込んでいた。
私が押し黙ると、兄はオレンジブリオッシュを口に入れた。