待てない柑士にひよりあり ~年上御曹司は大人げなくも独占欲が止められない~

「お前、腕が落ちてないな。おいしいよ。この見た目では店には出せないけど」
「厳しいなぁ」

 兄自身も祖父からも手ほどきを受けたことがあり、兄の方がパン作りの筋は良かった。
 兄はにこりと笑う。

「でも、大事な人に作った味がする。じいちゃんがばあちゃんに初めて作ったのもこれだったんだよな」

 そう言われて、思わず言葉に詰まった。
 そうか、だから祖父はあんなことを言ったんだ。

「柑士は、ひよりの大事な人にもなったか?」

 そう問われて、すぐにこくん、と首を縦に振っていた。

 壮一を好きになるまで二年かかった。キスまでは一年。

 なのにたった一か月でここまで好きになって、何度もキスをして、身体も重ねて……ここまで彼のことばかり考えてるなんておかしな話だ。

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