待てない柑士にひよりあり ~年上御曹司は大人げなくも独占欲が止められない~
「まぁ、当時は確かに面食らった。『うちの実家が大きな会社だからお金目当てですか』って冗談めかすと、『柑士は孤独を知ってる。だからこそ、気に入ったものは大事にしそうだから』だって」
私は思わず柑士さんを見る。
柑士さんは思いだすように、ゆっくり話を進めた。
「あっちでは日本に帰ってきたら必ず身を固めるようにと、見合いの話を随分持ち掛けられてた。日本では既婚かどうかは、特に気にされるからな。NYまで女性を連れてきてバンバン見合いさせられたのには辟易とした。でも、どの女性もピンと来なかった」
「そんなにたくさんお見合いしていたんですね」
「あぁ、ざっと五十人はした。父は家柄とかそこまで気にしなくていいから、自分が好きだと思える人と結婚しろというタイプだったから余計かもな。でも、そんなふうに思える相手がいないんだ。たぶん俺は誰かを好きになるのに時間がかかるんだろうって思ってた」
そう言われて、そういうところは私と同じなんだと思っていた。
柑士さんは続ける。
「相手が全く決まらない中、重蔵さんのベーカリーで食べているとき、よく隣に座ってきていた女の子のことをふと思い出した。重蔵さんの孫だっていってたけど、考えてみれば、その子も騒がしいその店の中で、ぽつんとそこにいたなって」
確かに、祖父の店で私はよく一人でパンを食べていた。
そのときの自分は小さすぎて、その空間に誰がいただなんて覚えていなかった。なんとなく気の向いた席に座ってパンを食べながら、働く祖父の背中を見ていたことだけは覚えている。
(私たちはずっとそんな孤独で、大事な時間を共有していたのかな……)