待てない柑士にひよりあり ~年上御曹司は大人げなくも独占欲が止められない~

「それで、調べてみたら、ひよりは俺と重蔵さんとの関りなんて知らないままうちの会社に入社してて驚いた。結構難しいだろ、うちの入社試験。しかもあの夜、靴をぶつけた理由が、彼氏に振られて飲みすぎて腹いせに缶を蹴ろうとして、っていうんだからさ。偶然が重なりすぎだろうって笑うしかなかったよ」

 そう言って柑士さんは楽しそうに笑う。
 私は驚きすぎて言葉に詰まっていた。

 確かに、私がISEZAKIに入社したことは柑士さんのことも祖父のことも全く知らない偶然だ。ただなんとなく食品の関連会社であるISEZAKIを第一志望にして受けていた。

 そしてあの日、壮一に振られたことだってもちろん偶然だ。

「ひより」

 そう言って、柑士さんは私の頬にそっと触れる。
 私がまっすぐ柑士さんを見つめていると、彼は口を開く。


「こんなに重なる偶然が“運命”じゃなかったら、なんて名前なんだ?」

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