待てない柑士にひよりあり ~年上御曹司は大人げなくも独占欲が止められない~
2章:2週間前

 まさかほんの二週間前には、こんなことになるなんて夢にも思ってなかった。
 そもそも柑士さんの顔も名前も知らなかったのだ。

 二週間前のあの日――。

 私は大手食料品関連グループISEZAKIホールディングス本社総務部経理課の一般職社員だ。
 実家の家業の影響で、食品関連会社に興味のあった私は、ここを第一志望にして激戦の末、なんとか一般職社員として、この会社に滑り込んだ。

 仕事中は肩まであるブラウンベージュの髪を一つに括っているが、いつも顔周りの髪の毛が束ねきれないので仕事中に邪魔になるそれをときおり耳にかけるのが癖になっている。

 右目の端に入ってきた髪を右耳にかけたところで、経理課長の席から明るい声が聞こえた。

「山崎くん、結婚するんだって? 聞いたよ」

 経理課長の席から聞こえたその言葉に、パソコンからぴょこんと顔をあげてそちらを見た。

 山崎なんて何人かいそうだから他の人かもしれないと思ったけど、やっぱり彼だ。
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