初恋を拗らせたワンコ彼氏が執着してきます

彼との甘い日常

「そんな言い方しなくったっていいじゃないですか。それに佐山(さやま)さんが、もう少しフォローしてくれればよかったのに」

 居室のデスクの前に立った後輩にそう言い返され、唯花(ゆいか)は心の中で溜息をついた。

 佐山唯花、現在32歳。大手総合食品メーカー『株式会社桜田フーズ』のペットフードなどの製造販売を手掛ける関係会社『株式会社サクラダペットフード』に勤めている会社員だ。

 所属は経理課で各費用の計上処理や、決算処理などを主に扱っている。最近ではほとんどの文書が電子化されているので、専用システムとの睨めっこが主な仕事だ。

 この会社に勤めて早11年目。経理一筋、気が付いたら主任になっており、自分より年上の女性がいなくなっていた。
 皆結婚や出産を機に辞めるか、もう少し業務量の少ない部署移動を希望するからだ。
 
 唯花には結婚の予定はないし、経理の仕事自体が好きなので異動を願い出るつもりはない。
 決算という地獄のデスマーチを乗り切った時は、いつもエベレスト登頂に成功したかのような達成感をおぼえる。登ったことはないけれど。
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