初恋を拗らせたワンコ彼氏が執着してきます

狼に出会った夜

 9年前のことになる。社会人2年目の唯花は夜の街をひとりトボトボと駅の方に向かっていた。

 入社して1年と少し、唯花は職場に馴染めない自分に落ち込んでいた。
 唯花は真面目な性格で責任感も人一倍強い一方、誰とでも気軽にコミュニケーションをとるのは得意ではなかった。加えて重い黒髪、眼鏡、地味な服装。若い社員はまず明るく元気でいなければならない風潮がある職場で物静かな唯花は浮いてしまっていた。

 新入社員の歓迎会の時、当時指導担当だった先輩にみんなの前で『なんで私はこんな可愛げのない新人が割り振られたんだか』と言われショックを受けた。
 それ以来飲み会の類から足が遠のいていたのだが、この日は世話になった部長の定年退職のお祝いだったため久しぶりに参加した。
 
 しかし、またもや酔った上司や先輩に『佐山は若いのに真面目過ぎてかわいげがないなぁ』『服装ももっと女の子らしくしたらどうだ』とセクハラまがいのことまで言われてしまったのだ。

 引きつった笑顔を貼りつけて何とかその場をしのぎ、2次会に行く面々を尻目に逃げるよう店を後にした。
 上司や先輩に他意はなく、きっと気にし過ぎている方がいけないのだ。そんな自分の性格に嫌気がさしていた。
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