初恋を拗らせたワンコ彼氏が執着してきます

ワンコ彼氏の執念

「お疲れさまでした。明日もよろしくお願いします」

　透はホテルの廊下で同行していた社員に笑顔で別れると、自分の宿泊する部屋のドアを開ける。
　室内を進みながらスーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めベッドに腰掛けた。

「ふー、さすがに疲れたな」
　思わず独り言が出る。

　時刻は既に２２時を過ぎていた。
　台湾出張３日目。現地法人の視察やスタッフとの顔合わせ、さらには取引会社との打ち合わせや会食が続いている。
　出向先のサクラダペットではなく桜田フーズの人間としての仕事だ。
　もちろん透はすべての仕事を精力的にこなしている。しかし。

「……あー、早く唯花さんに会いたい……」
　心の声が漏れてしまった。

　台北の街中や、台湾名物の夜市で美味しそうな食べ物や珍しいスイーツを見る度、唯花に食べさせたいと思った。
　既に土産も大量に買い込んである。

　あれから唯花には朝晩メッセージを送っているが、短い義務的な返信しか返ってこない。
　きっと彼女のことだから出張中で忙しい自分を気遣ってくれているだけだと思いたい……切実に。