初恋を拗らせたワンコ彼氏が執着してきます
 何でもないように言っているが、きっと唯花には自分のようにグレる余裕すらなかったのだ。
 母や大人に反抗している自分が急に幼稚に思えた。

『お母さんきっと心配してるわ。お腹の赤ちゃんはきみの弟か妹になるわけでしょ。守ってあげて欲しい』

 他人のことなのに泣きそうな顔で言うものだから、この人はどれだけお人好しなんだと呆れてしまった。

 そんな彼女が会社で真面目と言われていると悩んでいた。
 どうしても慰めたくなって『真面目の何が悪いんだ』と口にしていた。
 不真面目が服着てるような奴が言うなと怒られると思った。

 すると唯花は驚いたような顔をした後『そっか、そうだよね……』と表情を緩めた。
 
 そのふんわりした笑顔に思わずドキリとしてしまった。
 
 その後は、なんだか彼女がかわいく見えて仕方なかった。
 メイクも薄く、髪型も服装も地味な会ったばかりの年上の女性。しかも酔っ払いのおせっかい。

 心惹かれていることに混乱していたのだろう。別れ際に何か言いたくて出たのが『あんた、結構かわいい』という情けない言葉だった。

 照れながら『嬉しい、ありがとう』と応える唯花の笑顔がやっぱりかわいくて綺麗で、胸がギュッと苦しくなった。
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