初恋を拗らせたワンコ彼氏が執着してきます
　突然始まった親子喧嘩に驚く唯花を愛奈が睨みつけてきた。

「だって、透さん、佐山さんと付き合ってるって言うんだもん！」

「……言ったの？」
　思わず隣の透に尋ねてしまう。

「先週、唯花さんと非常階段で話した後に『佐山さんとお付き合いしているのであなたのことは考えられません』って伝えた。奥村さんと個人的に話したのは僕の事情を知っていることを匂わされたからだし、立ち話程度で食事なんて行ってない」

「だから奥村さんは焦って自分に都合のいい噂を流したってこと？」
　唯花の言葉が図星だったようだ。愛奈が感情的になる。

「だっておかしいじゃない、この人より私の方が若いし、かわいいし、専務の娘だし……！」
　
　それは否定しないが、噂を流せば自分の思い通りになる発想が幼稚というかなんというか……なんだか愛奈が哀れに思えてきた。
　すると桜田社長が落ち着いた口調で愛奈に尋ねた。

「なるほど。あなたは若い男が年上の女性とお付き合いしたり、結婚するのはおかしいと思うのかな？」
「そ、そりゃそうじゃないですか、若い方がいいに決まってます。おばさんとなんて普通結婚しようなんて思わな――」
「愛奈、やめなさい！」

　愛奈の言葉を奥村専務が強い口調で制する。さきほどは赤くなっていた顔が青くなっている。
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