怜悧なCEOの恋情が溢れて、愛に囲われる政略結婚【マカロン文庫溺甘シリーズ2023】
 滞りなく商談が終わり、再びタクシーに乗り込んで帰社しようとしたら、時刻が夕方に差しかかっているせいか道路がひどく渋滞していた。
 運転手さんが「()いてる道を行きますね」と申し出てきたので、それに了承して迂回を選ぶ。

 しばらく走ったところで、なにげなくスマホから車窓に視線を移す。
 外はだいぶ暗くなってきていたけれど、今いる場所が見覚えのある街並みだと気づいた。
 角地にあるパン屋さん、その並びにあるお花屋さん……

 ここは、私が住んでいた実家の近くだ。

 父が売却を決めたあと、思い出深いものだけは今住んでいるマンションに移したのだけれど、それ以降私は実家を訪れてはいない。
 それどころか、この街にすら近寄らなかった。
 人手に渡ってしまった実家を目にするのは辛かったから。

 今はどうなっているだろう?
 もしかしたら建物や庭がすっかり取り壊されてなくなっているかもしれない。
 だけど急に見てみたくなって、運転手さんに行き先を変更してもらった。
 どんな状態になっていたとしてもすでに覚悟はできている。

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