怜悧なCEOの恋情が溢れて、愛に囲われる政略結婚【マカロン文庫溺甘シリーズ2023】
 それからしばらくしても父は私のメールを読んでいないようだった。
 スマホの充電が切れていることに気づかず、そのままにしているのかもしれない。
 安西さんから再び電話がかかってくるかもと懸念したのだけれど、それもなかったので、父と連絡が取れなくてもなんとかなったのだろう。

 それよりも、待ち合わせの時間から三十分が過ぎたのに憲一朗さんがまだ来ていなくて、そっちのほうが気になってきた。
 昨日やり取りしたときには、会社に寄って用事を済ませてから来ると言っていたので、それが長引いているのかもしれない。
 だとしたら催促するように電話をかけるのも良くないし、束縒がリザーブしてくれたレストランの個室に移動して彼が来るまで静かに待つことにした。

 さらに二十分経っても憲一朗さんは現れない。
 彼が連絡もなくこんなにも待ち合わせに遅れたことは今まで一度もなかったので、交通事故にでもあったのではないかと、さすがに心配になってくる。

 スマホを開いてみるけれど、彼からのメールは届いていない。
 とりあえずこちらから『憲一朗さん、今どこですか? なにかありました?』と送っておいた。
 返事を待ってみたものの、私が送ったメールには既読がつかないままだ。

 父のほうも未読のままだし、私のスマホが故障でもしているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。


「桃田様、失礼いたします。お料理のご提供のほうはいかがいたしましょう? お連れ様は……」


 レストランの女性スタッフが困ったように私に声をかけてきた。
「少し遅くなるようです」と返事をしようとしたが、寸でのところでその言葉を飲み込んだ。
 すでに一時間近く遅れているのだから、全然“少し”ではない。


「ごめんなさい。彼が来るまでもうちょっと待ってもいいですか?」

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