怜悧なCEOの恋情が溢れて、愛に囲われる政略結婚【マカロン文庫溺甘シリーズ2023】
私の名は桃田 冬璃。ここで生まれ育ち、今年で二十六歳になった。
母は元々病弱で、十年前に病気で他界してからは父とふたりで暮らしている。
だけど父は昔から家にいることが少なく、帰ってこない日も多々ある。
子どものころ、どうしていつも家にいないのか私が無邪気に尋ねても、「仕事だ」の一点張りだった。
時が経ってもその行動は変わらないが、父がどこでなにをしようと、今はもう興味がないのでどうでもいい。
母が亡くなった後は、久米さんがずっとうちに来て家事をしてくれている。
彼女は五十代前半くらいの年齢で、母と同年代だから、今や私にとっては久米さんが母親代わりだ。
私がひとりで過ごすにはこの家は広すぎるけれど、十六歳まで母と一緒に過ごした思い出が残っているので、どうしても離れられない。
母は白いモクレンが好きだった。庭でそれを目にするたびに、母のやさしい笑顔が脳裏に浮かぶ。
「八月になれば、フヨウの花も咲きますね」
「そうね。今年も楽しみだわ」
フヨウは夏を代表する花木で、うちの庭にも植わっている。
私は庭の花の中では、薄いピンクのフヨウがかわいらしくて好きだ。
「冬璃さんご自身がフヨウのようですね」
「え?」
「美しくしとやかな顔立ちのことを“フヨウの顔”と例えたりするのですよ?」
うふふと笑う久米さんに、「ありがとう」と照れながらお礼を言った。
お世辞だとわかっていても褒められるとうれしいものだ。
母は元々病弱で、十年前に病気で他界してからは父とふたりで暮らしている。
だけど父は昔から家にいることが少なく、帰ってこない日も多々ある。
子どものころ、どうしていつも家にいないのか私が無邪気に尋ねても、「仕事だ」の一点張りだった。
時が経ってもその行動は変わらないが、父がどこでなにをしようと、今はもう興味がないのでどうでもいい。
母が亡くなった後は、久米さんがずっとうちに来て家事をしてくれている。
彼女は五十代前半くらいの年齢で、母と同年代だから、今や私にとっては久米さんが母親代わりだ。
私がひとりで過ごすにはこの家は広すぎるけれど、十六歳まで母と一緒に過ごした思い出が残っているので、どうしても離れられない。
母は白いモクレンが好きだった。庭でそれを目にするたびに、母のやさしい笑顔が脳裏に浮かぶ。
「八月になれば、フヨウの花も咲きますね」
「そうね。今年も楽しみだわ」
フヨウは夏を代表する花木で、うちの庭にも植わっている。
私は庭の花の中では、薄いピンクのフヨウがかわいらしくて好きだ。
「冬璃さんご自身がフヨウのようですね」
「え?」
「美しくしとやかな顔立ちのことを“フヨウの顔”と例えたりするのですよ?」
うふふと笑う久米さんに、「ありがとう」と照れながらお礼を言った。
お世辞だとわかっていても褒められるとうれしいものだ。