怜悧なCEOの恋情が溢れて、愛に囲われる政略結婚【マカロン文庫溺甘シリーズ2023】
§2.会社の危機を救う結婚
***

 サンセリテホテルから家に戻り、一睡もできずに朝を迎えた。

 昨夜は束縒が送ると言ってくれたけれど、それを断ってタクシーに乗ったところまでは覚えている。
 誰もいない真っ暗な自宅に着いて、そのまま自室に直行して床にへたりこんだのだと思う。
 脳が思考を停止しろと命じていたのか、細かい記憶があいまいなのだ。 

 今日も仕事を休みたいところだが、あいにく午後から重要な会議の予定が入っている。
 なので体調が悪いと言って午前だけ休むことにした。

 昨日とは打って変わって今朝の空は雨模様だ。
 大降りではなくしとしととした静かな雨だなと、自然と窓の外に目がいった。

 
「冬璃さん、食事をしないと倒れてしまいますよ?」


 シャワーを浴びたあと、ダイニングでお茶を飲む私に、久米さんが小さなおにぎりを作って出してくれた。
 瞼を腫らして目を真っ赤に充血させている私を見ても、彼女はなにも尋ねてこない。
 憲一朗さんの婚約をニュースで知ったのだろう。
 私を心配してか、今朝はいつもより早くうちに来てくれていた。そのやさしさが身に沁みて、余計に泣きそうになる。


「今日はどうしても出勤しなければいけないのですか?」

「……そうなの」

「でしたら冷たいタオルをお持ちしますね。腫れが引くように目を冷やしましょう」


 私が返事をする前に、久米さんはあわててタオルを準備しに行ってしまった。
 久米さんがいてくれてよかった。もし彼女がいなかったら、私は今もひとりぼっちで呆然としていただろうから。

 じわり、と再び涙目になったところで、テーブルの上に置いていたスマホの着信音が耳に届いた。かけてきたのは束縒だ。

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