怜悧なCEOの恋情が溢れて、愛に囲われる政略結婚【マカロン文庫溺甘シリーズ2023】
 力をこめてギュッとタオルを握りしめる久米さんに対し、私は首を小刻みに横に振った。


「それはダメ。……だいたい、私と彼はちゃんと付き合っていたわけじゃないもの。ただ何度かデートをしただけで、深い関係でもなかった」


 手を繋いだことはあった。だけど憲一朗さんはそれ以上私に手を出してはこなかった。
 私はそれを“紳士的”だと捉え、好きだという言葉はないものの、私を大事に思ってくれていると、都合よく考えていた。

 “二股”だったのかと問われれば、正確には違うのだろう。
 一線を越えていた可能性もあるけれど、結局そうはならなかったのだから。


「でも……冬璃さんを傷つけたあの人を、私は許せません!」

「怒ってくれてありがとう」


 こうして私は告白をするまでもなく失恋をした。
 とても嫌な終わり方だけれど、彼がほかの女性と結婚するというのだから、もうどうしようもない。
 時間と共に、胸の傷も次第に癒えていくだろう。

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